Apr.06.2012 「童夢S102.5開発レポート3」 ナバーラ テスト

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●スペインへ
フランス空軍基地で行われたシェイクダウンテストの主な目的は、S102.5が搭載するジャドDBエンジンとザイテックのパドルシフトの適合を中心としたシステム開発でした。
つまり、本来の童夢の仕事である車体の改良やチューニングではなく、その前段階の調整というべき内容のテストでした。
シェイクダウンテストから1ヶ月、ペスカロロ童夢チームは、スペインにおいて集中テストを実施することとなりました。
最初、4月3日と4日に大西洋岸に近いナバーラで走り込み、その後、地中海に近いアラゴンへ移動してテストは行われます。

ナバーラでは、シェイクダウンを担当したニコラス・ミナシアン、そしてS102のテストを担当していた荒聖治がS102.5をドライブしました。
4月1日に岡山でSuperGT開幕戦が行われたことから、日本からのスタッフの多くは2日に移動しました。
童夢の鮒子田寛監督とドライバーの荒聖治は、パリのシャルル・ド・ゴール空港を経由して、ナバーラ近郊のビルバオ行きの便に乗り込みましたが、彼らがシャルル・ド・ゴールに到着した時、EUの管制官のストライキによって、多くの便の発着が不可能な状況となっていました。運が悪いことに、それらの発着出来ない便の中にビルバオ行きも含まれていたため、アンリ・ペスカロロやニコラス・ミナシアン等、パリから移動するメンバーもシャルル・ド・ゴールで足止めをくってしまいました。

ルマンから陸路スペインに向かったスタッフや日本からフランクフルト経由でスペインに向かったスタッフは、無事ナバーラへ到着しましたが、ドライバーが到着しなければ走ることは出来ません。
そこで、取りあえずナバーラに近い空港まで飛行機が飛びそうな便を探したところ、シャルル・ド・ゴール空港からボルドーまでの便が飛ぶことが判明しました。
ただし、日本から飛んだスタッフはビルバオまで行かないと、日本で預けた荷物を受け出すことが出来ないため、アンリ・ペスカロロ、ニコラス・ミナシアン、クロード・ガローピンの3人だけがボルドー行きに乗り込み、その後はレンタカーに乗り換えナバーラに向かいました。
ニコラス・ミナシアンのドライブで、無事、夜中の2時過ぎにナバーラのホテルに到着することができましたが、ニコラス・ミナシアン曰く、24時間レースのトレーニングになったとのことです。

●雨のナバーラ
ナバーラは低中速コーナーが多いテクニカルサーキットです。ダウンフォースがかかるような高速コーナーは2つだけしかありません。
ペスカロロ童夢チームは、ナバーラにおいてはサスペンションを中心とした開発を行う計画でした。
真夜中にニコラス・ミナシアンが到着したため、ニコラス・ミナシアンによってナバーラテストは開始されました。
ところが、準備を進める間に雨が降り始め、午前10時走行が開始された時には完全なウェットコンディションとなってしまいました。

テストの最初の段階で、再度ジャドDBエンジンとザイテックのパドルシフトの適合を確認することとなりましたが、呆気ないくらい順調にシフトチェンジが行われたため、ELMSポールリカールから駆けつけたザイテックのエンジニアは、あっと言う間に仕事を完了しました。

ヘビーレインですから、慎重に基本的な作動確認を進めるうち、午後3時ごろ、童夢の鮒子田寛監督と荒聖治が到着しました。早速ニコラス・ミナシアンと交代して荒聖治がS102.5に乗り組み、いきなりヘビーレインの中ドライブを開始しました。荒聖治はFIA GT1選手権の際ナバーラで走ったことがあるため、直ぐに全開で走り始めました。
夕方になって雨が止んだことから、午後7時まで1時間程走行時間を延長してスリックタイヤでの走行が行うこととなりました。

所々が濡れている状況で気温も10℃しかありません。データを収集するためミディアムコンパウンドのタイヤを装着しましたが、もちろん、このコンディションに相応しいタイヤではありません。
雨用のセッティングで硬いタイヤを装着したため、ニコラス・ミナシアンと荒聖治は共に強いアンダーステアに苦しめられながら、最終的に2人共ほぼ同じ1分33秒台のタイムを記録しました。
到底限界を追求したタイムではありません。しかも、ナバーラでLMP1カーが走行するのは初めてであるため比較出来ませんが、とりあえず、この時点で、S102.5はLMP1カーのコースレコードを樹立したようです。

●2012年に成功するポイント
2012年レギュレーションのポイントは、前後のタイヤハウスの上に開口部の設置が義務付けられたことです。この開口部とは、従来フロントタイヤハウス上に設置が義務付けられたスリットとは違って、純粋に穴を開けなければなりません。真上から見ると、2012年バージョンのLMPカーは完全に4つのタイヤが見える状態となっています。
容易に想像出来ると思いますが、4つのタイヤハウス上に、タイヤが見えるくらい大きな開口部を設けるのですから、2012年のLMPカーは、2011年以前と比べると、大きく空力性能が低下しています。
この前後のタイヤハウスに設けられる“穴”の存在によって、2012年のLMPカーは、それ以前と比べると、まったく異なる空力セッティングを要求されることとなっています。

また、S102.5は、幅が10mm狭いだけで、直径はリアとまったく同じ710mmもある巨大なフロントタイヤを使用します。この大きなフロントタイヤの能力を引き出すことも、成功のポイントと言えるでしょう。
この巨大なフロントタイヤの能力を引き出すには、充分な荷重をフロントにも与える必要があります。S102.5のベースとなったS102は、大きなフロントタイヤの能力を引き出すことを目的として、前後の重量配分を前寄りとした先駆け的存在ですから、元々求めていたタイヤをやっと手に入れたこととなりますが、反面、未知の領域であることから、これからの開発の成否が問われます。

この2つが、2012年に成功する大きなポイントと考えられています。
残念ながら、テクニカルコースのナバーラは空力開発に適したコースではありません。1週間後、同じスペインのハイスピードのアラゴンで行われるテストによって本格的な空力開発が開始される予定です。
主にナバーラで行われた開発は、巨大なフロントタイヤの装着による前後のバランスを考慮したサスペンション開発でした。

2日目となって、コースは完全にドライコンディションとなりました。残念ながら気温は低く10℃から14℃程度、路面温度は20℃から22℃ですから決して高くはありません。強い風が吹いているため、晴れているにも関わらず、体感温度は非常に低く感じます。
最初、特性を判断するため、昨日同様、大きなセッティングを試みず走行を開始しました。予想通り巨大なフロントタイヤを暖めるのが難しいため、予想通り強いアンダーステアに苦しめられました。しかし、大きなダウンフォースが発生する2つの高速コーナーでは、巨大なフロントタイヤの能力を発揮出来るため、バランスは良いようです。

そこでまず、リアのグリップを確立するため、車高を下げると共にサスペンションのセッティングが行われました。数度のセッティングを試みた結果、リアのグリップが格段に向上しました。
ナバーラでは、前後の重量配分を変更しないで走行する予定であったことから、ダウンフォースがかからない低中速コーナーにおけるフロントタイヤのグリップに大きな違いはありません。

夕方になって、ある程度サスペンンションのセッティングが固まってきたことから、多少空力セッティングを試みることとなりました。様々な空力セッティングにトライした結果、フロントノーズ左右のカナードウイングを取り外して、ボディ後端のガーニーフラップを取り付けた状態がナバーラでのベストな空力セットであることが判明しました。
しかし、このセットはあくまでもナバーラを走る場合です。
この段階で、終了時間の6時を迎えました。
偶然ですが、ベストタイムはニコラス・ミナシアンと荒聖治が共に、まったく同じ1分31秒8を記録しました。

1週間後4月10日、今度は地中海に近いアラゴンに移動して、ペスカロロ童夢チームのテストは行われます。ハイスピードのアラゴンにおいて、いよいよ本格的な空力開発がスタートします。

鈴木 英紀 著