Apr.11.2012 「童夢S102.5開発レポート4」 アラゴン テスト

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●アラゴンへやって来たS102.5
ナバーラテストを終了したペスカロロ童夢チームは、フランスへ戻らず、そのまま同じスペインの地中海に近いアラゴンへ移動しました。
アラゴンはモーターランドと呼ばれる新しいサーキットです。2008年ルマンにも登場したイプシロンが拠点としただけでなく、長いストレートを持つ一方、近年、設備が拡張されたことから、様々なメーカーがテストに使用しているコースです。

ちょうどペスカロロ童夢チームがアラゴンへ到着した時、ヨーロッパはイースター(復活祭)休暇に入りました。アラゴンでは、数百台のバイクによるイベントが開催され、ヨーロッパ中からやって来たバイク好きによって華やかな雰囲気に包まれていました。イースター休暇は月曜日まで続き、終了した翌10日ペスカロロ童夢はテストを開始しました。

アラゴンがナバーラと最も違うのは、ポールリカールに匹敵する高速コースであることです。バックストレートの長さは、手前に存在する下りの高速コーナーを含めると、ポールリカールのミストラルストレートに匹敵する1,800mに達します。通常この長いストレートの入り口とストレートエンドにシケインを追加して、最高速度を低くした状態で使用されることが多いようですが、ルマンを目指すペスカロロ童夢チームはシケインを使わず、1,800mをフルに使ってテストを行いました。

ナバーラから直接アラゴンへやって来たペスカロロ童夢チームは、アラゴンにおいて完全に整備を行うと共に、高速コースに備えた様々なモディファイを行いました。ギア比は当然ですが、新しいアンダーカバーを装着して、ローダウンフォースのテストも行われます。

S102.5は、リアより10mm狭いだけの巨大なフロントタイヤを履くため、前後の重量配分やサスペンションに様々な工夫が盛り込まれています。ナバーラでは前後の重量配分に手を付けませんでしたが、アラゴンでは、最初からクルマの前寄りにバラストを搭載して、前後の重量配分を前寄りとしました。サスペンションについても、大きなタイヤの能力を引き出すため、大きくジオメトリーが変更されました。
むしろナバーラで走ったクルマの方がイレギュラーな内容で、こちらの方が本来のS102.5の姿と言えるでしょう。

また、今年から様々なルールが変わっています。コース上へオイルが垂れ流しにならないことを目的としたルールも追加されました。
このルールは、オイル漏れを防ぐため、新たにレギュレーションで設定された“エクストラ”キャッチタンクの搭載とオイルレベルを感知するセンサーの装着を義務付けるもので、システム自体は非常に簡単です。通常のオイルキャッチタンクの大気開放側に、もう1つオイルタンクを追加して、そのオイルタンク(=“エクストラ”キャッチタンク)に設けられたセンサーがオイルレベルを感知した場合、ピットに入らなければなりません。

ルールが変わったと言うと、リアカウルの追加されたフィンは、フロントウィンドウの上端の10mm後方まで存在する必要があるので、エアインテークを延長し、対応しています。アラゴンでは新しいインテイクも装着して走ることとなりました。
ドライバー陣は、荒聖治が帰国して、ニコラス・ミナシアンと共にセバスチャン・ブルディがS102.5のステアリングを握りました。

●2012年ルール恐るべし
ハイスピードコースのアラゴンですが、最初ナバーラと同じ空力パッケージで走り始めました。ノーズ左右にはカナードウイングが取り付けられ、大きな窪みが付いた床板、そしてボディ後端にもガーニーフラップが取り付けられたハイダウンフォースの空力パッケージです。サスペンションセッティングがまったく異なるため同じとは言えませんが、この状態でニコラス・ミナシアンが乗り組んでクルマの状態を確認した後、いよいよ本格的なテストに取りかかりました。

最初、数周ずつ走って、大きくセッティングが変更されました。大きくセッティングを変更することによって、新しいS102.5の特性を把握するのが目的です。この変更幅は次第に狭められましたが、アラゴンでのポールポジションを狙って開発している訳ではないため、ある程度アラゴンでも速いラップタイムが記録出来る程度の内容です。

もちろん、どんどんダウンフォースも減らされました。窪みの小さいローダウンフォースタイプのフロントディフューザーが使われ、リアウイングは寝かされ、ボディ後端のガーニーフラップも半分の高さとなりました。しかし、ノーズ左右のカナードウイングは、フロントだけでなく、リアの空力性能にも影響があるため、装着したまま走りました。

アラゴンは、現在では少数派となった左まわりのサーキットです。1コーナーを過ぎた後、しばらくの間登りが続き、その頂点から下る最初の区間が、ラグナセカのコークスクリューと似た複合コーナーです。コークスクリューと違うのは、最初に右コーナー、下った先が左コーナーであることです。ローダウンフォースの空力パッケージで、このようなテクニカル区間を走るのは場違いかもしれませんが、以外なことに、S102.5はミズスマシの様な速さを披露しました。
新しい大きなフロントタイヤの効果であるかもしれません。
コークスクリューと似たコーナーを過ぎると、大きく回り込んだ高速コーナーとなり、そのままバックストレートに続きます。

2012年のLMPカーの最大の特徴は、前後のタイヤハウス上に開口部の設置が義務付けられたことです。勘違いされている方々が多いようですが、この開口部はスリットではありません。レギュレーションブックでも「穴」と表現されているように、上から見た場合、完全にタイヤが見えることが求められています。そのため大きく空力性能を悪化させています。

童夢だけでなく、ペスカロロの面々にとっても、前後のタイヤハウス上に開けられた大きな開口部によって、どれくらい最高速度が落ちるのか?非常に興味深かったことでしょう。ある程度予想はしていましたが、前後のタイヤハウス上の開口部によって想像以上に空力性能は低下しているようです。S102は非常に速い最高速度を発揮したLMPカーでしたが、その発展型であるS102.5でさえ、310km/hにやっと届く程度の最高速度を記録しただけでした。もちろん、開発途上のマシンですから、開発が進んで、より長いルマンのサルテサーキットのユノディエールストレートであれば、もう少し速く走ることが出来るでしょう。
それでも、2012年レギュレーション恐るべし、と言うべきでしょう。

今回のテストでは初めてセバスチャン・ブルディが参加しました。現在、最速のスポーツカードライバーと言われるセバスチャン・ブルディですが、非常に繊細なセッティングを行うことでも知られています。次々と細かなセッティングを行う一方、クルマの特性を把握する能力にも優れていると判断されたため、リアの3本目のダンパーを装着したテストもブルディによって行うこととなりました。3本目のダンパーについては、現在、中心となってS102.5の開発を行っているニコラス・ミナシアンにはなかなかの評価でしたが、本格的な開発はこれからです。取りあえず、比較テストを行った段階と言えるでしょう。

高速コースであると共に、下りのハイスピードコーナーが多いことも理由であるかもしれませんが、前後の重量配分を前寄りとしたことによって、大きなフロントタイヤの能力を上手く引き出しているようです。

ペスカロロ童夢がテストを終了した直後、アラゴンは激しい砂嵐に襲われました。30分ほどで砂嵐は止んで、今度は激しい雨が降り始めました。雨も1時間ほどで止みましたが、今年のスポーツカーレースの動向を占うような激しい気候と共にスペインテストは終了しました。

鈴木 英紀 著